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第1094話

Penulis: 宮サトリ
その言葉を聞いた瞬間、浩史の手が一瞬止まった。

彼はしばらく無言で、ゆっくりと由奈の顔に視線を向けた。

「......ほう?一か月もいらない?」

「ええ、半月もあれば十分だと思います」

「ということは、半月後にはもう辞めるということか?」

その問いに、由奈の顔がぱっと明るくなった。

「はい。大内さんがこのままのペースで続けられれば、あと半月で引き継ぎを全部終えられそうです!」

彼女の声は弾み、瞳もきらきらと輝いていた。

抑えきれない喜びがそのまま表情ににじみ出て、口元も、眉の端も、嬉しさにゆるやかに上がっている。

最近の彼女は、どこか変わっていた。

毎日きちんとメイクをしているし、服も以前のような無地のスーツばかりではなくなった。

カーディガンやブラウスに少しだけ柔らかな色味を取り入れ、手首には数珠ブレスレットまでしている。

その変化に気づいた浩史は、もしかして今まで自分が仕事を詰めすぎていたのかもしれないと初めて省みた。

仕事の指示が厳しすぎて、彼女に私生活の余裕を与えていなかったのではないか。

服を買う時間も、メイクをする気力も奪っていたのでは。

そう思うと、胸の奥が少しだけざらついた。

浩史は軽く唇を引き結び、黙ったまま彼女を見つめていた。

「......社長?」

目の前で手がひらひらと振られた。

「もし特にご用がないなら、私はこれで失礼しますね?まだ処理しなければいけない書類がございますので」

その声に、浩史は小さく息を吐き、「いい」と短く答えた。

彼女が出ていくのを見届けると、浩史は机の上の内線電話を取り、秘書を呼んだ。

数分後、秘書が入ってきた。

「今年、君は有給を取ったか?」

「え?」秘書は一瞬きょとんとして首を振った。

「取っていません。取る暇なんてないですし」

浩史は信じられないように眉をひそめ、カレンダーに目を落とした。

もうすぐ年末。

なのに、まだ誰も休んでいない?

「じゃあ、君はともかく......由奈は?彼女は有給を取ったか?」

その質問に、秘書の表情が一瞬おかしくなった。

「まさかお忘れじゃないですよね?前に有給の話が出たとき、大型プロジェクトが重なってて、『今年は休みなし、その代わり年末にボーナス上乗せ』って言ったのは社長ご自身ですよ」

浩史のこめかみがぴくりと動いた。

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